1989年石川県金沢市生まれ。江戸時代から続く大樋焼の本家十一代大樋長左衞門の長男として生まれ、東京藝術大学と同大学大学院では建築を学んだ奈良祐希さん。陶芸家であり建築家である奈良さんが手がける独創的な造形美はどのようにして生まれ、独自の視点はどのようにして育まれたのか。お話を伺いました。
「放任されて育ったことは幸運」
進路を模索しながら、建築と陶芸を学ぶ道へ
「ある意味、放任されて育ちました。とても幸運だったと思います。幼少期から刷り込まれてしまうと、教わったままに『工芸や芸術とはこうあるべき』と思い込んでしまうこともありますから。」と、当時を振り返ります。
高校3年生までは野球に没頭する生活を送り、陶芸家になることを強要されずに育った奈良さん。一度は建築家を志します。
建築の道へ進む決断をすることができたのは、現代アーティストとしても活動している父の勧めによるところも大きかったそう。「建築の分野に関心を持ち始めたときに、建築を生業にしている知り合いに会わせてくれたことも後押しになりました。」
とはいえ、陶芸の魅力を存分に感じられる環境で育ってきた奈良さん。大学院1年のあるとき、実家に戻った際にふと「陶芸をやってみてもいいかな」と思えた瞬間があったのだと言います。そして大学院を休学し、2年間多治見市陶磁器意匠研究所で陶芸を学びました。
2017年、建築を学んだ大学院を首席で卒業。現在、自身の建築事務所を主宰しながら陶芸家としても活動する作家としてのあり方は、当時、十代目である祖父にかけられた言葉からの影響だと言います。
「大学在学中には、祖父からいつも『自分にしかできないことを探れ』と言われていました。祖父も東京藝大に通っていたので、身近な存在に感じていましたね。」
これらの経験は建築の設計技術と伝統的な工芸手法を融合させた、今の創作へとつながっていきます。
代表作『Bone Flower』の「肌色」が生み出された背景
処女作として発表した『Bone Flower』は、高い評価を受けました。硬質で繊細な層が織りなす光と影の造形は、空間や場との融和性が高く、陶芸固有の重たさを感じさせません。
当初は純白を追求していましたが、次第に自然にない色を使うことに違和感を感じるようになり、実家の大樋土を少し混ぜることで生み出した、自然色に近い「肌色」を用いています。
理想の白を模索するに至った経緯を、奈良さんはこう語ります。
「僕の作品は先端が細やかなつくりをしているため、素材に強度が欲しいと思ったことがきっかけです。大樋焼には窯焼き中に真っ赤な状態でつまみ出し、水につけるという手法があります。大樋土はその工程に耐え得る強度を持っています。その土を混ぜることで“しなやかな強さ”は出ないだろうか、と思案を巡らせました。」
土の配合を模索する工程の中で「白さは変わる」ことに気付いた奈良さんは、2019年に今のスタイルを確立。試行錯誤をする中で作品のベースとなるものはガラッと変わっていったと言います。
「受験生時代に建物の絵をどれだけ練習しても上達しない時期がありました。トライアンドエラーを繰り返す中で、ブレイクスルーにつながる発見がありました。その原体験があって、今でも創造と破壊の時間を自分の中に設けています。」
「創造は全てが順調に進んでいくものではない」という奈良さん。「後退や解体することもひとつの創造だと思います。僕はそういう創作に挑戦していきたいのです。」
唯一無二の個性を持った創作活動と作品が生まれる背景には、一度確立した手法を解体し、再度構築していこうとする飽くなき探求心がありました。
複合的な視点を持ち、分野を横断する活動が確固たる個性を育む
「陶芸を次のステージへ上げたい」と語る奈良さん。他分野の作家とのコラボレーションも積極的に行い、ジャンルを横断的に複合的に捉えて行う自身の制作活動について、日々このように感じていると言います。
「違う分野のエッセンスを取り入れ、バランスを取りながら技術を洗練させていく探求の作業は楽しいですね。何万年も続く歴史の中で、先人たちが追求を続けた陶芸をアップデートするには、異分野の技法や思考を頼りにする以外、手段はないと考えています。」
東京・南青山での展覧会(会期:2021年12月15日〜2022年1月14日)でフラワーアーティストのニコライ・バーグマンとセッションし、2020年には家具ブランド「ROLF BENZ」とコラボレーションする個展(会期:2020年10月23〜11月3日)を行うなど、クロスオーバーした活動を続ける奈良さん。「ジャンルを複合的にとらえることが、僕のオリジナリティ」と話し、今後は展示空間に目を向けているといいます。
広いスケールの場を必要とし、チームで創造していく建築の世界にも身を置く奈良さんは「建築で求められる視点は陶芸にも通じている」と言い、今後の展望について「展示空間に目を向けている」と話します。
広い視野で陶芸や創作に向き合う奈良さん。今後も独自性を拡張し、新しい魅力を持った作品を見せてくれそうです。
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