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長屋 - 日本の素晴らしい食材と料理をドイツでも広めていきたい

生産者の熱い愛情と思いの詰まった

日本の食材を取り入れて

日本の食材のすばらしさを広める。


長屋 佳澄 - 『Nagaya』(ドイツ・デュッセルドルフ)オーナーシェフ


大阪の日本料理店『神田川』と岐阜の『たか田八祥』で修業した後、2000年、家族でドイツに移住。複数の店で働いた後、2003年、レストラン『Nagaya』を開く。アジアとヨーロッパを融合した料理を提案する。2009年、同じ市内で店を移転。ミシュランの星を獲得。農林水産省の日本食普及の親善大使も務める。


長屋さんはどのようなきっかけで日本料理の料理人の道を目指したのでしょうか。

 私の実家の家業は魚屋で、魚を料理屋に卸していました。小さい頃から夏休みは市場に行ったりして、自然と飲食業界の中にいました。そして母がとてもお寿司が好きだったので、寿司職人になりたいと思っていました。日本料理の料理人になったのは、私にとってはとても自然な流れでした。


ドイツに行かれたきっかけを教えてください。

 日本の高校を卒業後、大阪の有名な日本料理店である『神田川』で7年、その後、私の地元である岐阜の『たか田八祥』という日本料理店で修業しました。そうするうちに私の妻から海外で暮らしたいという希望があり、色々と調べ始めました。最終的に子供のための日本語学校があることや暮らしやすさなどを考慮し、ドイツのデュッセルドルフに行くことを決め、日本料理店の料理長として職を得ることができました。


 その後、様々な困難がありましたが現地の人々の助けを借りて、自分の店を開くことができました。



20年前だと日本人で海外に店を開く人はまだ少なかったですよね。

 やはり言葉の壁が一番大きいと思います。若い人もそうだと思いますが、私も当初は開店資金が少なかったので、自分でカウンターを作ったりと、できることは自分たちでやって営業をしながら店を改良していきました。


茶懐石のおもてなしの心を大切に、料理は現地のお客様の嗜好に合わせて。

ヨーロッパの現地の人に合わせて料理はどのような工夫をしていますか。

 まず、それまで自分が日本で習ってきたことをドイツでそのままやったら、全く通用しませんでした。当時、旅行で日本へ行ってそこで食べたり、ニューヨークで食べたりと日本食もドイツで徐々に知られていたのですが、味がない、味が薄いと必ず言われました。ヨーロッパではワインにしてもそうですが、香りが重要です。香りで食事を楽しむし、香りにまた香りを加える、足し算をしたりします。日本ではなるべくシンプルにし、食材のもち味を生かすという引き算の考え方なので、全く違う。そこでアプローチを変えて、現地の人々が何を好きなのかを考えるところから始めました。


 ドイツでは塩気の多いものや、ザワークラフトなど酸味の強いものが好まれます。クリーミーなテクスチャーを出すようにしたり、見た目でも食べたいと思ってもらえるようにしたり、食感にアクセントをつけるためナッツ類を入れたりと工夫しました。正統派の日本料理からすると、うちの料理は枠をはみ出している部分もあるかと思いますが、まず現地のお客様の嗜好に合うこと、そして喜んでいただくことを考慮して、今のスタイルになっています。


 日本料理の基本は茶懐石からきていますが、その瞬間、目の前のお客様のために最高のおもてなしをする。この茶懐石の理念を念頭に、いかに目の前のお客様に楽しんでいただけるかを第一に考えるようにしました。


これまで長年﹑ヨーロッパの日本料理で高い評価を受けています。それをどのように維持されていますか。

 現状維持だけだと私自身は楽しくないので、次の段階を目指しています。ミシュランを二つ星にするというのは、従業員全員が一緒に目指せる、分かりやすい目標だと思いますので。


ドイツで20年﹑飲食店を経営してこられて何か気づきはありましたか。

 料理の世界でも常にトレンドや時代のニーズが変化していくと思います。常に自分でもアンテナを張ってお客様が何を求めているのかを調べ、改善していくことが大事だと思います。


 近年はヴィーガンの問い合わせが多いですね。ヨーロッパの方々は精進料理やマクロビオティックに関心が高いので、そういったメニューがあるかよく問い合わせがあります。



日本文化の発信に貢献されている長屋さんですが﹑どのようなことを伝えていきたいですか。

 私は日本の食材の素晴らしさを伝えていきたいですね。ヨーロッパではどちらかというと利益と効率重視の生産者が多いのですが、日本では生産者の食材に対する思い入れが強く、熱い思い、愛情を込めて生産している人が多い。私はそういった食材を使うことをとても楽しいと感じるんです。うちの店では日本からもたくさん食材を取り寄せています。


 また、日本の文化イベントなどで、日本の食材の食べ方を伝えたりしますが、逆にヨーロッパの方々から日本人にはないアイデアをいただいたりして、それが実に楽しいですね。若いシェフの方々のアイデアは奇抜で、面白いものが多いと感じます。


 和食は世界中のシェフが関心を持ったり、料理に取り入れてくれていますが、ただそこで間違った情報が伝播しないようにしたい。まずは基礎的な調理方法や正しい知識を伝えていきたいと思います。


コロナウィルスの影響と対応について教えてください。

 うちのお店も含めて、飲食業にとって非常に大変な時期です。しかしこの困難があるがゆえに出てくる、新しいアイデアもあるのではないかと思います。生産者も含めて飲食業界の人たちは苦しい時期の中頑張っていますので、どうか応援をお願いします。


最後に日本料理の料理人を目指す若い人にメッセージをお願いします。

 いきなり新しいことをしようとすると、自分の土台も崩れてしまうでしょう。まずは料理の基礎をしっかりと覚えることが大切です。伝統や古くても続いているものには、必ずその理由があるのです。また、料理の技術と経営とどちらか一方に偏るのはよくなくて、バランスを取ることが必要です。コロナ収束後には、チャンスは平等にやってくると思いますので、ぜひ頑張って乗り越えていきましょう。


ドイツで日本料理店を営むという中で﹑日本の食材﹑生産者の素晴らしさに気づいたという長屋さん。ヨーロッパの人々の好みに合わせアレンジした日本料理を提供しながら﹑茶懐石の思想は守り続ける。生活や文化は違っても﹑良いものは受け入れられるという世界共通の真実が見事に体現されていると思う。




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