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Gen de Art

窓の中の幻想: 原田郁とバーチャル世界

昨年12月より、アートフロントギャラリーでは5年ぶりとなる原田郁氏の個展が開催されています。自ら創造する3Dの仮想世界を拡張しながらその世界の場面を切り取り、2Dの絵画として表現するという独特なコンセプトを持つ原田郁氏。歴史的に「窓」に例えられる絵画を原田氏はPCディスプレイが私たちの現代の窓であると捉え直し、2009年頃よりシミュレーションペインターとして活動を始め、注目されてきました。


Iku Harada

原田郁 個展「In the Window」展示風景、2023-24


バーチャルリアリティの世界観が身近に感じられる近年、私たちは彼女の作り出す作品を、仮想と現実の両世界の相互関係をより明快に示す現代の表現方法として捉え、理解を深めてきました。原田氏はコンセプトを崩すことなく自身の仮想世界を断片的に切り取り続け、時にはより即物的に空間を再現する絵画として見せる展示構成を繰り返してきました。一方で、その絵画としての窓のなかに見える世界は、その時々の作家の心情やライフステージを内包したナラティブな表現でもありました。今展覧会の背景には、どのようなインスピレーションがあり、展示にはどのような工夫がされているのでしょうか。

 

「今回の個展のタイトルは、『In the Window』となっています。私は元々絵を描いてるのですが、その絵画は窓に例えられることが歴史的な文脈にあって、私は絵を書き始めてすぐの初期の頃からこのコンセプトを崩さずに活動してきました。元々3Dで自分の理想郷をバーチャル世界に作り、そこの景色を切り取って描いていました。キャンバスのフレームの中にパースペクティブのあるものを描くと、そこにイリュージョンが生じて空間が現れることにちなんで窓と言われることがあるのですが、今回はその意味をここのギャラリーを使い、大きなインスタレーションのような絵画として表現しました。この正面にある絵は、ギャラリーの窓の外から見える景色になっていて、外から第一段階として見てもらい、ギャラリーの中に入ってもらうと、また同じ風景がレイヤーとなって見えてくるというような仕掛けの構造になっています」


Iku Harada

原田郁 個展「In the Window」展示風景、2023-24


改めていま、これまでの原田氏の作品を一つの集合体として見返したとき、それは彼女自身を示す大きな物語として見えてきます。この5年の間、台湾から始まり、シンガポール、韓国と世界的な舞台で展示を行い大きく成長してきた原田郁氏。先日の韓国の個展では初めてその世界のとらえ方を第三者の手に任せて共同制作を試みました。そこでは彼女が描く絵画の奥に広がりがあり、その先に幾重にも新たな仮想世界への入り口が用意されているという、彼女の深層心理に触れるような作品に仕上がりました。その結果として彼女は自らの世界の在り方を改めて再確認しました。国外での活動を経て、今回の展覧会では何か新しい取り組みはあったのでしょうか。

 

「大きなチャレンジはこの立体を作ったことです。これまでバーチャルの世界を作った後に絵を描くことはあったのですが、今回の個展にあわせて絵のモチーフとして何度か描いてきたカラーシリーズを立体化させました。かなり色の強い展示となっておりますので、皆さんに作品を通して元気を与えられたら嬉しいです」


またコロナ禍を経て、多くの人々にとってバーチャル世界が身近になったと語る原田氏。その以前からバーチャル世界での制作を行なっていた原田氏にとって、バーチャル世界はどのような意味を持っているのでしょうか。

 

「私にとってバーチャルの世界は自分の身を守るような、自分の居場所を作るための有効な空間だと思っています。でも最近はコロナ禍が明けて前の日常に戻ったこともあり、現実世界に出て行きたい欲求が出てきました。コロナ以降の新しい世界に、少しの希望と不安も抱えながらも踏み出そうというような裏メッセージみたいなものもあります。なので、展示全体を鮮やかな色で、歓迎するような演出になっています」


Iku Harada

原田郁 個展「In the Window」展示風景、2023-24

 

世界の流れと共に、作品の表現方法も新たな局面を迎えた原田氏ですが、今回の展示において彼女はタイトルが示すように、窓の中に描かれた彼女の世界を、短い物語のように(あるいは風景画として)、散文的な詩のように(あるいは抽象画として)これまで通りに切り取って見せています。しかしその作品の見え方は大きく変わり、その絵画を窓とし、その窓の向こう側を意識したものとなっています。2024年はどのような方向性で制作に取り組んでいくのでしょうか。

 

「このメディアが今新しいからとか、こういう時代だからというよりかは、何か私が今必要としていることや作りたいもの、描きたいことを制作しています。あとは仕事上の出会いや意図せず変化していく部分もあったりして、方向性は決めずにその時その時の自然な状態で制作しています。コロナ禍を経てバーチャル世界を楽しむようになった方も多いと思いますが、私としてはやっと私の考えていたコンセプトが人々と繋がったように感じています。今後も自分が楽しめることを最優先に、制作を続けていきたいと思っています」

 

開催概要

原田郁 個展「In the Window」


会場

アートフロントギャラリー

(東京都渋谷区猿楽町 29-18 ヒルサイドテラス A棟)


会期

2023 年12月8日(金)- 2024年1月21日(日)


営業時間

水~金 12:00 - 19:00 / 土日:11:00 - 17:00


休廊日

月曜日、火曜日、および冬季休廊(12月25日~1月5日)

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