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日本の伝統文化を伝える草月流第四代家元・勅使河原茜に創作にかける想いを聞く

「一輪の花が空間を変える」


1960年東京生まれ。草月流初代家元・勅使河原蒼風の孫であり、草月流第三代家元・宏の次女として生まれた茜さん。いけばな草月流は、型にとらわれず、自由な創造と個性を大切にする流派です。暮らしに溶け込む身近ないけばなから、前衛的で大胆なアートとも言える作品まで、幅広い表現を特徴としています。2001年に第四代家元に就任し、創作活動を続けている茜家元からお話を伺い、代々受け継がれてきた草月流の考え方や美学を探りました。


勅使河原茜さん

伝える力の大切さ

幼少の頃から叔母である第二代家元・霞にいけばなの手ほどきを受けていた茜さん。いつも身の回りに花があり、いけばなは特別なものではなかったと言います。


「週に一回、草月会館のジュニアクラス(子ども向けのいけばな教室)に通っていて、遊び感覚で自由にいけていました。」


現在は茜さん自らが「茜ジュニアクラス」を主宰しています。茜さんは草月会に入る前、幼稚園の教諭として4年間勤務していた経験があり、このとき身につけた小さな子どもたちへの「伝え方」の工夫は、いけばなの教え方にも通じるところがあったのだとか。


「幼稚園では子どもが相手。興味がなければ話も聞いてくれません。関心を持ってもらえるように、伝える方法を工夫する必要があります。いけばなの指導でも『伝え方』は重要です。」


そして、「同じ指導で誰もが理解してくれるとか、些細なことは言わなくてもわかってくれると考えるのではなく、相手がどんな人なのかを見極め、その人に合った伝え方をしていかなければいけません。」と、穏やかに語ります。

家元を継承して20年。家元作品の制作を陰から支えるアトリエスタッフをはじめ、会員(草月流師範)とのコミュニケーションを何よりも大切にしてきた茜さんは、草月会に入ってすぐ、広報部で勤務していた時代に、大切な気付きを得たと言います。

「取材で赴いた先で出会った会員の方々の草月への想いの深さ、強さに驚かされました。草月が祖父の時代から今日まで存在し続けてこられたのも、こうして草月のいけばなを愛してくださる方がいるからこそなのだと実感しました。」

茜さんの家元継承20周年を記念して、草月会館別館アトリエで2021年11月に開催された「勅使河原茜展 ひらく」では、大型のインスタレーションやいけばな作品が展示されました。制作過程では、これまで培われてきたアトリエスタッフとの絆が遺憾なく発揮されました。

メインの大作は、植物と鉄を使った巨大な球体のインスタレーション。初代家元・蒼風のオブジェをパーツとして組み込み、新たに再構成した同作は、脈々と受け継がれてきた草月の遺伝子が今も息づいていることを実感させるものとなりました。



他分野との交流、新しいいけばなの可能性を探る

茜さんは、他分野の表現者とのコラボレーションも精力的に行っています。


クリエイティブカンパニー「NAKED Inc.」と共同制作した作品では、プロジェクションマッピングの中に浮かび上がる幻想的な花の空間を立ち上げました。このとき、いけばなの世界だけで制作していれば経験することのないような悩みに直面したのだとか。


「プロジェクションマッピングは映像を投影しますので、暗い環境でないと映えません。私は、いけた作品がはっきり見えない暗さに納得がいきませんでした。根気強く話し合いを繰り返して、ようやくお互いが納得のいく形で作品を発表することができました。」


アーティスト同士が独りよがりの表現に走るのではなく、お互いの良さをいかしながら、ひとつの目標を目指す共同制作では、大いに刺激を受けると言います。


「そういった意味でも、草月は異なるジャンルの表現者とコラボレーションしながら、進化してきました。」


いけばなはやはり植物と向き合うことが何よりも大切だとも話します。


「植物の特徴をいかし、そこにいけ手の個性をプラスしていく。そこがいけばなの面白いところであり、ワクワクするところですね。」と、茜さん。植物との対話を通じて得た着想が、表現に向かうエネルギーに変えられていく。その喜びが表情からも読み取れました。



日本の美しい伝統文化をもっと身近に

いつの時代も風化することなく、瑞々しいいけばなの世界を体現する草月流。茜さんは今、いけばなが必要以上に特別なものと捉えられがちなことに疑問を抱いていると言います。

「海外の方は、先入観なくいけばなを“アート”として捉えてくれます。また、海外では人に花を贈ったり、人をお招きするときに花でもてなしたりすることがポピュラーなせいか、花への意識も高いように思います。今の日本人は日本の美しい伝統文化であるいけばなを、どれだけ身近に感じているでしょうか。」


茜さんは「忙しい現代人にとって、ますます花が遠のきつつある」と、続けます。


「いけばなは、知識や経験がなければできないものではありません。お花屋さんで花を一輪買って、器にいけ、ご自宅のどこに飾れば一番素敵なのかを考えてみてください。一輪の花で空間は華やかに変わります。まずはその変化を体験してみてほしいですね。」


敷居が高く、手の届きにくいものと認識されてしまう。だからこそ、実際に作品を見て感じてもらう機会の必要性を痛感としていると言います。


「いけばなを身近に感じてもらうためのきっかけを作ることが、私の使命だと思う。」と語る茜さん。多くの人の心に訴えかける作品を通して美の追求を続けながら、いけばなの普及に力を注いでいます。


家元継承20周年記念

勅使河原茜展 ひらく


昨年11月、茜さんの家元継承20周年を記念した個展第二弾「ひらく」が開催されました。同年7月には、西の拠点である草月WEST(京都)にて個展第一弾「むすぶ」を開催。個展第二弾「ひらく」は歴代家元の創造の場であり、草月流にとって心臓部とも言える草月会館別館アトリエが舞台。草月の歴史を通じて思い出深い場所で、メインとなった巨大な球体のインスタレーションや壮大な作品の数々が人々を魅了しました。1984年4月に建設された現在のアトリエは、周辺地域の開発に伴い数年以内に取り壊される予定となっています。

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