ドメーヌ・アンヌ・グロは、ブルゴーニュで最も名高いドメーヌの一つです。アンヌ・グロのワインは、繊細で調和のとれたエレガントな味わいが特徴です。グラン・クリュとしても認められる“リシュブール”、“クロ・ド・ヴージョ”、“エシュゾーレ”など、多くの高名なワインを輩出しています。知識、才能、精神力はもちろんのこと、ブドウ畑やワインの情熱に溢れる彼女を、多くのワイン愛好家が支持しています。
男性優位のビジネスにおける女性
アンヌ・グロの父 フランソワ・グロは、フランス、ブルゴーニュ地方のヴォーヌ・ロマネでワイナリーを営んでいました。しかし、健康状態の悪化により、わずか２２歳のアンヌにその舵取りを引き継ぐことになりました。アンヌはワインに囲まれた環境で育ち、学生時代からワイン作りにも携わっていましたが、それでも、かつてほど順調ではなくなっていた父のワインビジネスの継承は、困難に満ちていました。アンヌは当時の心境を「引き継ぐ準備はできていました。」と言います。ワイナリーは彼女にとって運命であり、兄弟のいない彼女が一族の中で受け継ぐことは、父に対する使命だと信じていたからです。現在、南フランスのミネルヴォワ地方でも新たなワイナリーを手掛ける彼女は、多種多様なワインを生み出すことで大成功を収め、今や彼女のワイナリーはブルゴーニュで最も人気の高いブランドの１つとなっています。
ワイン業界は男性社会ですが、彼女は自分が女性のディレクターであることを誇りに思っています。重い物を運ぶことを除き、男性にできて女性にできないことはないと彼女は言います。それは常に彼女の信念であり、成功への願望と強い自立心を彼女に教え込んだ厳格な父によって育まれたものだったのでしょう。
ワインビジネスに ついてとことん学ぶ
アンヌは、ワイナリーの経営に関して必要とされるすべてのことをこなせると自負しています。しかし、父からワイナリーを継承した1988年当時は、ワインに関する多少の経験はあったものの、学びの連続でした。メンターのいなかった彼女は、何年もかけて経験を積み、失敗から学び、常に改善を怠りませんでした。今日も彼女は学び続け、新しいアイディアを探求し、知識をさらに広げることに喜びを感じています。今では彼女はこのビジネスを熟知していますが、ゼロからスタートして業界にまつわる様々な煩雑なことについて学び、事業の拡大のために人を雇う必要を感じるようになりました。成功するためには、このビジネスのあらゆる側面をあらゆるレベルで理解することが不可欠であると、彼女は繰り返し述べています。
家族経営
アンヌは、ワイナリーを優秀な従業員たちに任せられると確信してから、子どもをもうけました。アンヌが3人目の子供を妊娠した時、彼女のワイナリーが家族経営とビジネスケアでより成功するために改善できると感じました。今日、アンヌの長女のジュリーはドメーヌで、次に生まれた長男のポールはワインビジネスで働いています。今もなお、誇りを持って家族経営を続けています。
著名なワインメーカーであること
優れたワインメーカーになるには何が必要なのかという問いに対し、アンヌは忍耐やリスクを取る勇気、新しいアイディアを生み出す力が、キャリアの成功のカギとなる資質であると答えます。彼女は自分の仕事を心から楽しんでいますが、膨大な事務作業―これはほぼすべての業界において必須のものですが―を処理するためのコンピューターの知識を身に付けることも推奨しています。また、彼女同様、この業界についてとことん学ぶこと―ブドウの選定に始まり、ワインの製造や秘書的な業務、経営上の意思決定まで―も推奨しています。
忍耐やリスクテイク以外にも、彼女の立場では旺盛な好奇心が必要とされますが、それは彼女にとっては当たり前のことだと言います。大の自然愛好家であり、建築にも造詣の深い彼女は、日々の仕事を自らの手でこなすことを楽しんでいます。また、ワイナリーでの仕事は、どれ一つとして手を抜くことが許されないため、一日の終わりに達成できたと思える仕事量はほんのわずかにしか感じられません。しかし、大切なのは、細部にまで注意を行き渡らせつつ、一つひとつの仕事が首尾良く行われることであると彼女は信じています。
ワイン造りという芸術は...
ワイン造りを芸術と捉える人もいるかもしれませんが、アンヌは必ずしも同意していません。１本の完璧なワインを造るには、非常に多くの要素が必要とされるからです。その多くは自然に左右されます。たとえば天候や土壌の肥沃さ、地面の状態。そしてもちろん、毎年素晴らしいブドウが育つ保証はありません。それでも、各ヴィンテージに用いられるような特別なシグネチャーが生まれることがあります。しかし、分別と古くからの伝統を尊ぶ彼女は、その秘密については想像するだけに留めています。
ヴィンテージへの直観
では、いつがワインのヴィンテージイヤーになるかは、どのようにして知ることができるのでしょうか。アンヌは、ワインが樽に集められる醸造開始直後の非常に早い段階で、本能的に分かるそうです。彼女がそれまでの苦労の成果を味わうことができるのは、まさにこの瞬間です。ヴィンテージワインが生まれる過程は複雑であり、奇跡に近いと彼女は考えています。多くの人々がワイン造りを芸術だと信じるのもそれ故でしょう。
ドメーヌ・アン・グロのフレーバーを紐解く
アンヌのワインのフレーバーについては、多くの人がフェミニンでエレガントな香りがあると表現しますが、それは彼女自身の人となりを反映しているようでもあります。彼女は男性でも同様にエレガントなワインのフレーバーを生み出すことはできるし、ワインは女性的でも男性的でもないと考えています。もちろん、男性的と表現される強いフレーバーのワインを生産する女性のワイン醸造家も数多く存在します。ワイン造りは、造り手の内面の感情を表現することができ、おそらくそこに個性が現れるのだと彼女は考えています。しかしながら、前述のとおり、ワイン造りは使用されるブドウや土壌の肥沃さ、天候にも左右されます。そのため、３年ごとにフレーバーに微かな変化が起こるのです。
成功の秘訣
ワイナリーを成功させる秘訣は幸福です。アンヌは常に精神を良い状態に保つことがワインにも反映され、チームを鼓舞すると考えています。彼女と共に働くチームの人々には、様々な違いがあります。そのため、彼女が仕事の課題やプレッシャーについて共有できる人材を選ぶことが重要です。多くの課題がありますが、それらが起こった時には常にチームで積極的に対処しなければなりません。アンヌのチーム内には友情があり、笑顔が溢れ、メンバーたちは幸福です。そのムードが、アンヌの生み出すワインにも反映されているのです。そして彼女は、自分のワインを飲む人々にもその友情と喜びを感じてもらいたいと願っています。
ドメーヌ・アン・グロの未来
将来を見据えた時、アンヌの願いは５０歳の誕生日を前にワイナリーを子どもたちへ引き継ぐことでした。それは実現し、今では子どもたちがブドウ園とセラーを管理しています。彼女の役割は、ブドウ園が成長、繁栄し続けるよう、子どもたちを導くことです。彼女はまた、先回りして考えることができるため、十分な財産を用意し、彼女が亡くなった後も次世代がブドウ園を長く続けるのに必要なすべての手段を整えました。
変化への適応
最後に、アンヌは物事とは急速に変化するものであることを理解しています。直近では新型コロナウィルスがワイン業界に影響を及ぼし、観光やレジャー産業に打撃を与えました。世界中のレストランが閉鎖されたことで、彼女のビジネスも多少低迷しましたが、それは一時的なものであると彼女は信じています。レストランについて言えば、彼女が最後に私に伝えたメッセージは「ワインを飲む時は、素晴らしい料理をどうぞお忘れなく。パンデミック後はぜひ世界中を旅して、様々な料理を試していただき、ワインがもたらす多様なフレーバーを楽しんでください。」というものでした。アンヌのワインがブルゴーニュに君臨し続け、一族のビジネスが今後何年にもわたって繁栄するのは間違いありません。
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