国立新美術館の特定研究員、小野寺奈津氏がGen de Artの独占インタビューに応じて下さいました。彼女は「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」のキュレーターを担当しています。今回は、その企画背景や展覧会の魅力について語ってくれました。
カクテル・ドレス―ピート・モンドリアンへのオマージュ 1965年秋冬オートクチュールコレクション
© Yves Saint Laurent © Alexandre Guirkinger
Gen de Art :「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」の企画のインスピレーションときっかけについてお話いただけますか?
小野寺氏 : この展覧会の企画にはかなり長い準備期間があり、約5年前から企画が進行していました。展覧会はイヴ・サンローランの素晴らしいファッションとその時代を表現したもので、時代ごとにスタイルの変化があります。サンローランは約40年にわたって活動を続け、オートクチュールのファッション界で多大な功績を成し遂げました。その長いキャリアや彼の生き様を展覧会でお伝えできるように心がけました。
Gen de Art : 展覧会の背景についても詳しくお聞きできますか?
小野寺氏 : 今回の展覧会は、イヴ・サンローラン美術館パリのコレクションから構成されています。この美術館はかつてサンローランが彼のオートクチュールのファッションを制作していた場所でもあります。サンローランの服やアイテムを保管していた場所が美術館として残され、その歴史を一番理解している場所といえます。この美術館のコレクションを通じて、サンローランのファッションや彼の時代を紹介することができる点が大きな特徴です。イヴ・サンローラン美術館パリには専門的なスタッフがおり、その方々の協力を得ながら作品の詳細やポイントを検討しました。この美術館の協力なしには展覧会を開催することはできませんでした。
Gen de Art : 本展は実際にサンローランのコレクションを日本で観覧できる数少ない機会ですよね。みどころを教えていただけますか?
小野寺氏 : 展覧会は12の章に分かれており、2章では特に目を引く作品を集めたスペースが用意されています。展覧会は基本的に時系列順ではなく、幅広いスタイルを紹介しています。始まりの部分はサンローランの幼少期から最初のコレクションまでを紹介し、その後もさまざまな作風やスタイルをテーマごとに展示しています。特に注目したいのは、アーティストたちからの影響を受けて制作された作品や、サンローランが時代を象徴するスタイルを作り上げたアイコニックな作品です。これらの展示にもぜひ注目していただきたいです。
Gen de Art : 展覧会の中で特に印象深かった作品はありますか?
小野寺氏 : 展覧会の中で特に印象に残った作品は、サンローランが1968年に発表したコレクションの一部です。このコレクションは、日本でもファッション誌などで注目され、女性たちの間でズボンを穿くスタイルが広まっていった時期に関連しています。その影響力と役割を考えると、このコレクションは特筆すべきものです。また、サンローランがさまざまなアーティストからインスピレーションを得て制作した作品では、そのクリエイティブなプロセスがみどころです。
Gen de Art: 展覧会をより楽しむための方法についてもお聞きできますか?
小野寺氏: もちろんです。展覧会は、サンローランの40年にわたるオートクチュールの歴史を紹介しています。そのため、非常に手の込んだ、豪華なファッションアイテムが展示されています。また、アーティストたちから影響を受けた作品や他の美術作品との対比も楽しめる展示もあります。これらの作品の手仕事や技術をじっくりと見ることで、ファッションの魅力や細部に込められたストーリーを楽しむことができます。展覧会を通じて、サンローランのクリエイティビティやファッションの進化を感じていただければ幸いです。
1 「バブーシュカ」ウエディング・ガウン 1965年秋冬オートクチュールコレクション © Yves Saint Laurent © Alexandre Guirkinger
2 セヴリーヌ・セリジーのドレス 1967年に公開されたルイス・ブニュエル監督の映画『昼顔』のカトリーヌ・ドヌーヴのためのデザイン © Yves Saint Laurent
© Sophie Carre
3 ジャケット 1977年に行われたジジ・ジャンメールのショー『ローラン・プティのショーに登場するジジ』のためのデザイン © Yves Saint Laurent © Sophie Carre
4 ジャンプスーツ 1968年秋冬オートクチュールコレクション © Yves Saint Laurent © Sophie Carre
5 ボーティング・アンサンブル ファースト・ピーコート 1962年春夏オートクチュールコレクション © Yves Saint Laurent © Alexandre Guirkinger
6 ファースト・サファリ・ジャケット 1968年春夏オートクチュールコレクション © Yves Saint Laurent © Sophie Carre
7 アンサンブル 1989年春夏オートクチュールコレクション © Yves Saint Laurent © Alexandre Guirkinger
8 イヴニング・ガウン 1995年秋冬オートクチュールコレクション © Yves Saint Laurent © Alexandre Guirkinger
9 女王のドレス(第1幕) 1978年に行われた演劇『双頭の鷲』のジュヌヴィエーヴ・パージュのためのデザイン © Yves Saint Laurent © Sophie Carre
小野寺奈津 プロフィール
所属: 国立新美術館 特定研究員
学歴: 慶應義塾大学大学院博士課程単位取得満期退学
経歴: 愛知県美術館、資生堂ギャラリー学芸員を経て、現職
主な担当展: 2019年「クリスチャン・ボルタンスキー―Lifetime」展、2021年「ファッション イン ジャパン1945-2020ー流行と社会」展
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