アジア最大級の映画の祭典、第37回東京国際映画祭が11月6日、10日間の開催期間を終え、東京・日比谷で閉幕しました。コンペティション部門の最高賞である東京グランプリ(東京都知事賞)には、吉田大八監督の『敵』が選出され、最優秀監督賞と主演男優賞(長塚京三)を合わせた3冠を達成。日本映画の東京グランプリ受賞は、第18回の根岸吉太郎監督『雪に願うこと』以来、19年ぶりの快挙となりました。
映画『敵』より吉田大八監督と主演の長塚京三 ©2024 TIFF
グランプリを受賞した『敵』は、孤独な老人の姿を通じて現代社会の断面を映し出す作品です。主演の長塚京三が演じる老人が突如として謎の「敵」に閉じ込められるという展開から、人間の孤独や社会との繋がりを鋭く描き出しています。国際審査委員長を務めたトニー・レオンは「ユーモアのセンスと映画的表現が新鮮で、すべてが完璧に仕上げられた心打たれる作品」と高く評価。吉田監督は「この小さな映画を誕生から旅立ちまで見届けてくれたスタッフや俳優の皆さんに感謝しています」と語り、「味方は意外と多いことに気づけて良かった」と受賞の喜びを表現しました。
主演男優賞を受賞した長塚京三は、79歳での受賞となり、映画祭史上最高齢記録を更新。「年を取って一人ぼっちで助けもない、そして敵に閉じ込められるという内容でしたが、こういう場に立たせてもらい、結構味方もいるんじゃないかと気を強く持ちました」と、作品のテーマと重なる心境を吐露しました。審査員特別賞に選ばれたコロンビアの『アディオス・アミーゴ』は、内戦末期のコロンビアを舞台に、深刻な社会状況の中にもユーモアを織り交ぜた作品として評価されました。審査員を務めた橋本愛は「特に冒頭の虹のシーンは映画史に残る伝説的なシーンだと思いました」と称賛。監督のイバン・D・ガオナは「世界一周するほど遠いコロンビアから来ました」と、喜びと共に映画の持つ国境を越えた力を示唆しました。
総評を述べるトニー・レオン審査委員長 ©2024 TIFF
主演女優賞を受けた『トラフィック』のアナマリア・ヴァルトロメイは、ルーマニア、ベルギー、オランダの国際共同制作作品で見せた繊細な演技が高く評価されました。「目で多くを表現する」演技について、「目で語る男」として知られるトニー・レオンからの賞賛に「喜びは爆発しそうです」と感激を示しました。また、最優秀芸術貢献賞を受賞した中国の『わが友アンドレ』は、監督デビュー作ながら大胆な映像表現が評価され、ドン・ズージェン監督は「劇中の大雪のシーンは私の心の中の悩みや暗い気持ちを表現していますが、雪はいつか溶けて太陽が現れる。希望に満ちているんです」と作品に込めた思いを語りました。
観客賞に輝いた『小さな私』は、障がいを持つ青年の成長を描いた中国映画。ヤン・リーナー監督は「この映画の持つ物語が最終的に皆さんの心に刺さることがあればいいな」と観客の共感に感謝を述べました。アジアの未来部門では、トルコの『昼のアポロン 夜のアテネ』が作品賞を獲得。新たな才能の発掘という映画祭の重要な使命を体現する結果に。
今年の映画祭は、活気に満ちた10日間となりました。208本の上映作品に延べ61,576人が来場し、海外からのゲストも2,561人と昨年比128.1%に増加。178件のゲスト登壇イベントが行われ、国際色豊かな交流の場となりました。特筆すべきは女性監督の活躍で、上映作品の21.9%(共同監督作品含む)を女性監督が手がけるなど、多様性にも配慮した映画祭として存在感を示しました。
第37回東京国際映画祭の受賞者 ©2024 TIFF
閉幕式では、小池百合子東京都知事のメッセージが代読され、「世界がいくつもの困難に見舞われておりますが、映画の魅力を発信することで素晴らしい未来につながることを期待しています」と、映画の持つ力への期待が語られました。トニー・レオンは「審査委員全員一致でこの素晴らしい作品を見つけることができました」と総評し、10日間の映画の祭典は幕を閉じました。
東京国際映画祭
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