2024年10月28日から11月6日まで、アジア最大規模を誇る映画の祭典である第37回東京国際映画祭が開催されました。今年も国内外から集まった208本の多彩な作品が一堂に会し、観客を新たな映画体験へと誘います。本映画祭は2021年にプログラミング・ディレクターとして市山尚三氏を迎えて以来、大きな変革を遂げています。松竹やオフィス北野を拠点に、数々の海外作品を手掛けてきた市山氏の手腕によって、東京国際映画祭はアジアを代表する映画祭として、より国際的な舞台へと進化を続けています。本記事では、市山プログラミング・ディレクターに、今回の映画祭が持つ特徴と意義、そして次世代へ向けたビジョンについてお話を伺いました。
プログラミング・ディレクター 市山尚三氏
女性に焦点を当てた新部門「ウィメンズ・エンパワーメント」
1985年に第1回が開催されて以来、時代と共に進化し続けてきた東京国際映画祭。今年から新たに、女性監督の作品、あるいは女性の活躍をテーマとする作品に焦点をあてた「ウィメンズ・エンパワーメント」部門が設立されました。
「新しい部門を設けるにあたり、多くの意見を集め、映画祭を支えてくれる東京都とも何度も議論を重ねました。最終的に選ばれたのが『ウィメンズ・エンパワーメント』部門です。東京国際映画祭では過去に女性映画を取り上げていた時期があります。1990年代には『国際女性映画週間』が開催されていましたが、10年ほどで終了していました。同様のセクションをいま復活させることは非常に意義深いと思います。世界には多くの優れた女性監督がいますし、素晴らしいラインナップを組むことができると確信していました」。
市山氏は、映画界の男女共同参画を推進する「Collectif 50/50」運動への貢献も、この部門設立の重要な理由の一つとして挙げます。「3年前に東京国際映画祭は『Collectif 50/50』に署名しました。私たちはこの取り組みに賛同しようと考えたのです」。この新設部門は多くの女性監督たちから反響を呼び、数多くの作品の中から、慎重な選考を経て7作品が選出されました。市山氏は「選ばれた7作品はどれも非常に力強い、素晴らしい作品だと思います」と、その質の高さを評価しています。
インディペンデント映画の可能性を支援
東京国際映画祭では、ここ1年の日本映画を対象に、特に海外に紹介されるべき日本映画という観点から選考された作品を上映する「Nippon Cinema Now」部門が設けられています。
「日本には素晴らしいインディペンデント映画が多くありますが、100席程度の小さな映画館でしか上映されません。興行収入的にも厳しい。それでも多くの優れた若手監督が低予算で素晴らしい作品を作っています。私たちはこの映画祭で、これらの作品をTOHOシネマズのスクリーン12で上映する機会を提供したいと考えました。500席近くある日本最高の映画館のひとつで上映されることは、映画監督たちにとって非常に励みになるはずです」。
今回この部門に選ばれた作品のひとつが、東京藝術大学大学院の修了生、ヤン・リーピン監督の『雲ゆくままに』。撮影期間2週間、予算200万円という制約で作られた卒業制作作品ですが、市山氏は彼の能力を買い、この作品を選びました。「このような作品は政府からの支援を受けていないことがほとんどですが、この映画祭で上映されることで、次のプロジェクトでは政府の資金を得られ、より大きな予算で映画を作ることができるかもしれません。若手映画監督たちが映画制作を続けられる機会を提供したいのです」。
©東京藝術大学大学院映像研究科
海外作品を見ない若者たち
「日本には映画館に良い観客がいる」と市山氏は言います。しかしながら、現状を見ると、若い世代の多くが海外映画から距離を置いている実情があるようです。
「若い人には外国映画も見てほしい。ですが、日本映画だけ見る人が多い。それはおそらく文化的背景によるもので、彼らは外国の文化にそれほど興味がないのかもしれません。これは日本の映画産業にとっては支えになりますが、良いことだとは思いません。若い人々が外国の文化に興味を持ってほしいと思います」。
アジア映画産業との連携を強化
東京国際映画祭は作品の上映やコンペティションだけでなく、アジアの映画産業とのネットワークや共同制作の機会を提供しています。それが映画祭と併催されている「TIFFCOM」。アジアを代表するマルチコンテンツマーケットです。TIFFCOMには映画、テレビ、アニメなど多彩なコンテンツホルダーが一堂に会し、世界各国から有力なバイヤーが来場します。
「多くのアジアの人々、特に多くの中国の関係者が来場しました。日本では若手映画監督が十分な予算を得ることが難しいのですが、現在TAICCA(台湾クリエイティブ・コンテンツ・エイジェンシー)の支援を得ることができ、多くの日本の監督が台湾と協力しています。日本の映画監督が台湾のスタッフや俳優と協力する素晴らしい機会を提供してくれています」。
今年は蔦哲一郎監督の『黒の牛』など2作品がTAICCAの支援を受けています。来年はさらに支援作品が増える予定であり、両国間の映画交流は着実に深まりを見せています。
Black_Ox ©NIKO NIKO FILM MOOLIN FILMS CINEMA INUTILE CINERIC CREATIVE FOURIER FILMS
次世代に向けた人材育成の場としての映画祭
東京国際映画祭がアジアの映画産業との国際交流の場を提供する中で、若手映画監督の中に新たな動きがみられるようになった、と市山氏は指摘します。
「海外の人、特に中国、韓国、台湾などの人々と作品を作りたいと考える非常に才能のある監督が出てきています。おそらくアジアの国々との共同製作はますます増えていくでしょう。東京国際映画祭が、人々が出会える場所になることを願っています」。
2021年より、市山氏をプログラミング・ディレクターに迎えたことで、東京国際映画祭は「アジアを代表する映画祭」としての個性を一層際立たせています。国際交流を通じた映画人材の育成の場としても、その存在感は今後さらに高まると予想されます。
東京国際映画祭
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