国内外から選び抜かれた作品を 10 日間上映し競い合う東京国際映画祭 (Tokyo International Film Festival)。第 36 回となる今年は、作品数ゲスト数など大幅に増え、盛況の内に閉幕しました。「東京から映画の可能性を発信し、多様な世界との交流に貢献する」という理念に基づいた参加作品は、どの様に選び、選ばれたのでしょうか。プログラミング・ディレクター市山尚三氏、小辻陽平監督と小路紘史監督に伺いました。
市山尚三 - バスク映画特集の意義
1963 年生まれ。1992 年から 1999 年まで東京国際映画祭の作品選定を担当。2000年、映画祭「東京フィルメックス」を創設、2021 年に東京国際映画祭のプログラミング・ディレクターに就任しました。「今年はスペイン、イタリア、台湾、香港など各国政府や団体が支援する特別プログラムを多く実施します。中でもエシカル・フィルム賞を受賞した『ミツバチと私(東京国際映画祭上映タイトル『20000 種のハチ(仮題)』)』は、第 73 回ベルリン国際映画祭でソフィア・オテロが史上最年少の 8 歳で主演俳優賞を受賞し、大きな話題となった作品。かねてより親交のあるサン・セバスティアン国際映画祭のホセ=ルイス・レボルディノス氏から提案され、ワールドフォーカス部門にてスペイン・バスク地方の映画を特集し、『ミツバチと私』を含む強力な 5 作品を上映する事ができました。バスク州政府は映画だけでなく、音楽や芸術など文化を促進するための予算を持っていますし、彼らとのパートナーシップを重視するべきです。また、2011 年には毎年 15人のアジアの若手映画制作者を招く『タレンツ・トーキョー』というワークショップを始めたのですが、東京国際映画祭でも映画監督を目指す若者に学ぶ機会を設けられる様にしたいと考えています。今回初めて開催した是枝裕和監督による、アジアの映画学生向けのマスタークラスも、予算を拡大してもっと多くの講師や学生を招聘したいと思います。映画祭は映画の未来にも貢献すべきものですから」
小辻陽平 - 即興演出という実験
1985 年生まれ。特別支援学校で教員として働きながら 2017 年に短編映画『岸辺の部屋』を発表。脚本に 4 年を費やした初長編作品『曖昧な楽園』が東京国際映画祭コンペティション部門に選出されました。「祖父が認知症と筋ジストロフィーで寝たきりの状態でしたので、福井県の実家へ帰省する度に病室へ通っていました。ただ一緒に座って静かに時を過ごす...それが自分の中で 『名付けようの無い時間 』として残っていて、少しずつ情景が浮かんで来ました。主題は生と死ですが、二つの物語が並行して流れて行くと言う 構成自体に信念みたいなものがあります。そして常に実験をしている様な感覚で役者とリハーサルや対話を重ね、現場でも即興を重視し、皆で考えて作って行きました。最も印象的だったのは、最後にクラゲという登場人物がバンで深呼吸するシーン。リー正敏さんが「私に任せて下さい」と言ってくれたのです。あの演技を観た時に、何か凄いものが撮れたのではないかと興奮しました。観た人の数だけ色々な解釈、像が生まれ、色々な個人の記憶にアクセスする様な映画になれ ば本当に幸せです」
小路紘史 - 自己犠牲の美しさ
1986 年生まれ。長編処女作の『ケンとカズ』は 2015 年の第 28 回東京国際映画祭「日本映画スプラッシュ部門」作品賞、新藤兼人賞銀賞、日本映画監督協会新人賞を受賞。 8 年ぶりの新作『辰巳』は「アジアの未来」部門に出品されました。 「自主制作のためのクラウドファンディングで多くの資金が集まり、オーディションの応募者数は前作の 10 倍以上。主演の辰巳役と葵役には『ONODA 一万夜を越えて』 ( 2021 年 ) の遠藤雄弥さんや森田想さんなど、既に活躍されている方達が来て下さいました。『ケンとカズ』と共通するテーマは、自分を犠牲にして相手の事を想う事ができるのか否か。辰巳と葵はいがみ合う中で関係性を築いて行き、最終的に辰巳は葵のために生きる事を選択します。自己犠牲の素晴らしさや美しさが、今一番伝えたい事です。東京俳優・映画&放送専門学校の講師であるダグ・キャンベル監督から「自分の好きなものを撮りなさい」「自分が良いと思ったセンスを信じなさい」とずっと言われて来ました。だから、卒業して 15 年経った今でも、型にはまらず自由に映画を撮る事ができるのだと思います」
今年の映画祭はヴィム・ヴェンダース監督の審査委員長就任、小津安二郎生誕 120 年記念企画、東京グランプリに輝いた『雪豹』、性自認に悩む 8 歳の名演『ミツバチと私』、エシカル・フィルム賞の新設など、話題満載の 10 日間となりました。また、交流ラウンジや学生交流プログラムとい った国際交流・人材育成の場としても存在価値を高めています。東京国際映画祭を巣立った若手クリエイターが、次世代の銀幕を担う日も遠くないかも知れません。
©2023 TIFF
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