2016年8月より、ニーナ・ツィンマー氏は、アンブレラ財団(Umbrella Foundation)の後援のもと、ベルン美術館とパウルクレー・センターの舵取りをしています。これらの施設は、歴史と現代性が融合するスポットとして、また、それぞれが独自の特徴と魅力によって世界中に名を馳せています。ツィンマー氏は、国際的な経験と総合的な学術的・専門的背景から、これらの美術館に積極的な視点を吹き込んでいます。彼女は伝統と革新を融合させ、美術館の未来を過去のように刺激的なものにしようと試みています。今回の対談では、これらの文化的ランドマークに対するツィンマー氏の野心的な計画を掘り下げ、不朽のヘリテージと国際的なアートシーンにおける戦略的な進化を浮き彫りにしました。
Nina Zimmer, the director of Kunstmuseum Bern and Zentrum Paul Klee
美術館の簡単な紹介と、館長になるまでの道のりを教えてください。
私たちは、アンブレラ財団のもと、ベルン美術館とパウルクレー・センターという2つの施設を運営しています。ベルン美術館は啓蒙時代に根ざし、中世から現代美術まで幅広いコレクションを誇ります。特にスイスのルネサンス期、19世紀美術、そして世界の現代美術への先駆的なアプローチに強みを持っています。来年20周年を迎えるパウルクレー・センターは、レンゾ・ピアノが設計した印象的な建物の内部に位置し、パウル・クレーの作品と現代美術に焦点を当てて、幅広い教育と地域社会へのアウトリーチ・プログラムによって補完されています。
私はドイツ出身で、ドイツ、フランス、アメリカで学んだ後に、韓国やシカゴの客員教授など、世界各地で職業経験を積んできました。私の国際的な経験は、「展示やプログラムに国際的な視点を取り入れる」という美術館のコミットメントに大きな影響を与えています。
Vincent van Gogh, Verblühte Sonnenblumen (Zwei abgeschnittene Sonnenblumen), 1887, late summer, Oil on canvas, 50 x 60,7 cm, Kunstmuseum Bern
Ernst Ludwig Kirchner, Alpsonntag. Szene am, Brunnen, um 1929, Oil on canvas, with mounted, original frame, 168 x 400 cm, Kunstmuseum Bern
現在の役職に就くにあたり、教育や美術教育における研究においてどのような準備をしていましたか。
教えるということは、指導することと同様に学ぶことでもあります。韓国のソウルにある韓国芸術総合学校で客員教授として西洋の現代美術を教え、以前はシカゴ大学で現代美術を教えていました。学生たちの知識欲と探究心はかけがえのないものでした。若い世代と関わることは、私の好奇心に火をつけるだけでなく、新しい経験や目まぐるしく変化する世界の現実を常に受け入れるよう促してくれました。この好奇心は今後も私を活気づけ、特に美術館における私の役割に広い視野を与えてくれると前向きに考えています。
幅広い時代やスタイルのアートを監督するようになってから、キュレーションにおける考え方は何か進化を遂げましたか?
基本的に私の姿勢は変わりませんが、私たちが活動する状況は確実に変化しています。今では、デジタル化された資料を活用したり、ハイブリッドな方法論を採用する機会が増えました。これによって、デジタル・アーカイブと芸術的資料の両方を、新たな方法で平等に鑑賞することができるようになりました。また、持続可能性も重要な焦点となっています。インパクトのある展示を実現するために、物理的に輸送が必要なオリジナル作品を使用するか、デジタルな手段を使うべきか、より慎重に判断するようになりました。オリジナル作品のユニークな存在感を大切にする一方で、輸送による環境への影響を最小限に抑えることも同じく重要です。国際的な視野を維持することは私にとって不可欠ですが、そのためには、オリジナル作品を観客に届けるための移動や輸送の必要性をよく考える必要があります。
Paul Klee, Ad Parnassum, 1932, Oil on canvas, original mounted wooden frame, 100 x 126 cm, Kunstmuseum Bern, Verein der Freunde
19世紀と20世紀のコレクションを展示する際の焦点を教えていただけますか?
コレクションの根幹となる作品と、女性アーティストの作品など、時を経て新たな評価を得た作品の両方を展示することで、展示のバランスをとることを目指しています。これまで見過ごされてきた作品の価値を見出し、称えることに力を注います。最近の展覧会では、特に女性やその他の社会から疎外されたアーティストについて、アーカイブの中から魅力的な物語を発掘し、最も目立つ位置に展示しています。
当館のコレクションの中でも傑出した作品のひとつに、パウル・クレーの「アド・パルナッスム(Ad Parnassum)」があります。この作品は、クレーがベルン州南部の高地帯ユングフラウ地方に位置するニーセン山を、エジプトのピラミッドをイメージして描いた作品で、スイスの風景と世界的なアイコンを融合しています。クレーの最も重要で大きな作品のひとつであり、私たちのコレクションの主要な存在です。
さらに、横井照子の生涯と作品に焦点を当てた展覧会を開催し、その作品を常設コレクションに加えました。晩年をベルンで過ごし、アメリカ人画家サム・フランシスとコラボレーションも行った彼女は、ベルンと日本の影響をユニークに融合させた作品を生み出しました。彼女の作品群は私たちのコレクションに彩りを加え、「多様な作品を紹介し、深みを目指す」という私たちのコミットメントを物語っています。
ベルン美術館の今後の大きな目標や、新しい取り組みについてお聞かせください。
現在、1980年代の増築部分に代わる新しい美術館の建物の設計者を選定しているところです。また、ケープタウンのツァイツ・アフリカ現代美術館と初のパートナーシップを組んだ南アフリカ人アーティスト、トレーシー・ローズ(Tracey Rose)の作品展にも意欲的です。このイニシアチブは、世界規模で現代美術に取り組む私たちの継続的な努力の重要な一歩です。新館の完成は約10年後を予定しており、当館の成長と革新が刺激的な段階にあることを示しています。
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