フランス・ブルゴーニュ地方、コート ドール地域の中心地にあるトネルリー・ビヨン(Tonnellerie Billon)は、1947年の創業以来、フランス産オーク樽の製造を専門とし、職人の技術と伝統を守り続けています。この工房は、ワインの熟成を引き立てる高品質な樽を製造し、世界中のワイナリーから高い評価を受けています。その中心人物であるヴィンセント・ダミ氏(Vincent Damy)は、国家最優秀職人章(Meilleur Ouvrier de France, M.O.F.)の栄誉を持つ樽職人であり、伝統と革新を巧みに融合させたリーダーです。

写真の提供;トネルリー・ビヨン
ヴィンセント・ダミ氏:職人技を象徴する存在
ダミ氏は、樽職人の家系に生まれ、幼い頃から木材加工技術に親しんで育ちました。父親は1976年にフランス最高職人の称号を獲得しており、その影響でダミ氏も技術の継承と進化に努めてきました。彼自身も2007年に同じ称号を獲得し、その卓越した技術力が認められました。
ダミ氏はこの経験についてこう語ります。「初めて課題を目にしたとき、これは到底達成できないと思いました。しかし、粘り強く挑戦し、細部にこだわり続けることで、不可能だと思った目標が可能になることを実感しました。」
この称号は、ダミ氏にとって個人的な達成だけではなく、伝統工芸の価値を広めるための責任でもあります。彼のリーダーシップのもと、トネルリー・ビヨンは技術と伝統を融合させ、ワイナリーの多様なニーズに応えています。
工房の現場:職人技が生きる場所
トネルリー・ビヨンの工房を訪れると、全ての作業工程に職人の技術と細心の注意が行き届いていることが分かります。今回の取材では、フランス市場担当責任者であるカンタン・ティルマン氏(Quentin Tilman)の案内のもと、製造プロセスを見学しました。
ティルマン氏は、樽製造における3つの主要工程を以下のように説明します。
1. 木材の選定と自然乾燥
樽に使用されるフランス産オークは、アリエ県やニエーヴル県の森林から調達されます。これらの木材は、2~4年間自然乾燥され、安定性を高め、熟成中のワインに純粋な香りと適切な風味をもたらします。
2. 手作業による組み立て
木材は正確に切断され、職人の手で一枚一枚丁寧に組み立てられます。この工程では、樽の密閉性と耐久性を確保するため、高度な技術が求められます。
3. 火入れ(バシナージュ)
火入れは、樽がワインに与える風味を決定づける重要な工程です。火加減を細かく調整することで、樽に繊細な香りを加える一方で、ワイン本来の個性を損なわない仕上がりを実現します。
こうした工程一つひとつに職人の経験と熟練の技が反映され、結果として、トネルリー・ビヨンの樽はトップワイナリーから高い評価を受けています。

Courtesy of Gen de Art

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チームワークと技術継承
ダミ氏は、トネルリー・ビヨンの成功は個人の力だけでなく、チーム全体の協力と技術の共有によるものだと考えています。現在、工房には17人の職人が在籍しており、各々が専門分野で高い技術を発揮しています。
その中でも、シリル・カプレ氏(Cyril Caplet)は2019年に国家最優秀職人章の称号を獲得しており、工房全体の技術力の高さを象徴する存在です。また、若手職人の育成にも力を入れており、厳格なトレーニングを通じて次世代の職人が技術を習得し、伝統が受け継がれています。
伝統と革新の融合
トネルリー・ビヨンは、伝統的な職人技を守りつつ、現代のワイナリーのニーズに応える革新を取り入れています。各ワイナリーとの緊密な連携を通じて、品種や熟成スタイルに合わせたオーダーメイドの樽を提供しています。
工房で製造される樽は、フランス全土で展開する容量228リットルから820リットルまでの製品に加え、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、ヨーロッパ各地の主要なワイン産地へも輸出されています。樽はそれぞれ、ワインの個性を引き立てるよう設計されています。

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職人精神と時間への敬意
ダミ氏が語る職人精神は、「忍耐、専念、細部へのこだわり」に集約されます。各樽は単なる容器ではなく、時間への敬意と未来への約束が込められた作品です。工房全体が一丸となり、こうした価値観を日々の作業に反映させています。
Tonnellerie Billon