近畿大学理工学部電子工学科卒業後、エンジニアとして勤務。その後、調理専門カレッジを卒業して大阪、神戸、フランスで修業を積む。2005年ウィンザーホテル洞爺『Michel Bras Toya Japan』で部門シェフを務めた後、2008年に自身の店を開店。2009年、史上最短でミシュラン三つ星を獲得した。「Asia's 50 best restaurants」や「Foodie top 100 resutaurants」などの受賞歴もある。
米田さんは絵の才能がありながら料理の道に進まれたと伺っています。料理と芸術の関係性について伺えますか。
私は 料理自体が総合芸術だと思います。料理は見て、かいで、触れて、さらに音、味と五感で楽しむことができるので、演劇などよりも感覚を多く刺激するエンターテインメントだと思っています。
以前﹑米田さんが「よい料理はよい音楽と同じ」というお話をされていて、とても印象的でした。
私は理工学部を卒業していることもあって、音楽を勉強し始めたのは脳科学からなんです。「なぜ人は音楽に感動するのか」という疑問を脳科学の観点から解明すると、音程が上下した時に脳からドーパミンという快楽物質が出る過程がある。この仕組みを料理にも応用できるのではないかと考え、コース料理を作っていますし、メッセージ性のある料理を作ることで、さらにもう少し感動が生まれるのではないかと考えつつ料理をしています。
米田さんの料理のアイデアやインスピレーションはどこからきているのでしょうか。
自分の美意識、本当の美意識は実は勉強で得たものではないのではないか、と思ったことがあるんですね。私は1歳から4歳頃は、山と川の自然に囲まれた地域で生活していたのですが、その頃に自然世界の中の調和と美を無意識のうちに感じていて、そこから本当の自分の美意識が生まれたのではないかと考えたのです。今はその自分の本当の美意識を柱としながら料理の構成を考えています。
自然の美を意識した料理構成ということですね。それに加え﹑料理に対してどのようなビジョンをお持ちでしょうか。
料理はその細部において、なぜこの食材はこの大きさにするのか、なぜそのような火入れをするのか、このような味付けをする理由とはと、すべての事柄に対して説明ができることが重要ではないかと思っています。同じ「温める」でも、10℃と100℃では大きな差がある。なぜ46.4℃である必要があるのか、というように、細部にまでこだわることが重要だと思っています。
自分の感性と美意識を信じて、そのまま料理として表現しています。
どのようにして他の人とは異なる独自のスタイルを確立されましたか。また﹑2012年5月に店名にフランス料理という冠を外していますが、そのきっかけは?
私はあまり他の人が作っている料理は意識せずに、自分が美しいと感じるものをそのまま料理として表現しています。自分の料理って何だろうと考え始めた時に、最終的には周りから勉強したものではなく、自分が本当に美味しい、美しいと思うものを作った方がよいのではと考えたのです。
私はまず大学を卒業してエンジニアとして就職し、26歳からフランス料理の料理人になったのですけれども、26歳から前はどんな食事をしていたかというと、日本の家庭料理やラーメンなどの普通の食事をしていました。さらに遡って、幼少期に春夏秋冬の移り変わりや、植物や鳥、昆虫などが自然の中に調和している様子に感じた美をそのまま料理に表そうと思ったのですが、その際に◯◯料理ではなく、自分自身の料理を作っていこうと考えたのです。
だから店名にフランス料理と謳う必要がないということですね。史上最短でミシュラン三つ星を獲得した天才シェフと称されましたが﹑その感想と獲得で生活で変化したことはありましたか。
いただく瞬間は有り難いと思いました。しかし自分ではまだまだ目標に向かっている途中経過の地点で評価をいただいたと考えていますので、受賞して自分が変わったという感じはあまりないですね。
エンジニアから未知の領域である料理人に転職した時は﹑やはり大変でしたか。また﹑空手家だったということですが﹑空手から受けた影響はありますか。
エンジニアから転職した際は、全くの料理未経験から始めたので失敗の連続でしたよ。勤めていたレストランでは毎日注意ばかりされていました。
空手は大学を卒業して30歳くらいまでやっていました。柔道や剣道も子供の頃にやっていたのですが、武道は自分との対話のような要素、つまり精神鍛錬が必要です。武道をしている時に自分自身の調整と、自分の中で食材と”対話”しながら料理をしていく過程と、何か通じるところはあるように思います。
お店の経営者としてスタッフにはどのような教育を行い﹑高いレベルのサービスを維持されているのでしょうか。
私は人材教育は、言語化できる部分とできない部分に分かれると考えています。言語化できる部分に関しては、数字や文字で示すようにしています。例えば同じものを口に入れても人によって”美味しい”は少し差があるわけですが、このような味覚や感覚などの言語化できない部分の教育には、長時間を要すると思って取り組んでいます。
将来の目標とまだ実現できていない夢はありますか。
将来的には、宇宙で生活する時間の方が長くなる可能性もあり得るわけです。私の将来の夢は、宇宙に行って料理を作ってみたいです。現在、宇宙食はチューブ食が主ですが、いずれ人々が宇宙旅行をするようになったら、重力がないところでどのような料理ができるのか、チューブ食ではないちゃんとした料理を宇宙で作ってみたいですね。
壮大な夢ですね!最後にコロナ禍の中﹑日本全体の飲食業界のために署名活動をされましたが﹑現在のお店の状況はいかがでしょうか。
当店でもかなりの影響を受けています。また日本全体としては閉店に追い込まれる店が増えており、業界全体では危機的状況です。政府に対して飲食業界の声をさらに届けていきたいと思っています。コロナが収束して、国内や海外への旅行もできる日がきっとくると思いますので、希望を持って頑張っていきましょう。
一皿一皿がアートのように美しく﹑そして他のどこにもない際立つ個性を放つ米田シェフの料理は﹑感性のみだけでなく、ガストロのミーを基本に﹑科学的根拠を元に緻密に計算されて作られているということが分かった。それは緻密さと計算の正確さを求められる理系の学業と仕事経験があってこそ料理の世界で花開いた﹑米田シェフならではの才能だと思う。
Photos by Mashashi Kuma
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