目つきの人物や動物をモチーフにした作品で世界中のファンを惹きつけ、国内の美術館だけではなく、ニューヨーク近代美術館(MoMA)やロサンゼルス現代美術館(MOCA)にも作品が収蔵されているアーティスト、奈良美智(ならよしとも)氏。その展覧会『Yoshitomo Nara: All My Little Words』がウィーンのアルベルティーナ近代美術館で2023年11月1日まで開催されています。Gen de Artでは、ウィーンの会場で奈良氏に原体験や音楽、旅行、故郷と創作の関係について伺うことができました。
Work for Picture Book “Lonesome Puppy”, 1999 Acrylic and colored pencil on paper, 26 × 52 cm
Collection of the artist
Photo/The Albertina Museum, Vienna
ヨーロッパ展覧会: 奈良美智の40年間の軌跡
アルベルティーナ美術館で開催中の『Yoshitomo Nara: All My Little Words』は、ヨーロッパにおける奈良美智氏の大規模な展覧会として、10年以上ぶりに開催されます。この展覧会では、ドローイングを中心に、約40年にわたるアーティストの創作の軌跡をたどります。
展覧会では、紙に描かれた初期の実験的な作品から、多種多様なペインティングや彫刻、そして「My Drawing Room 2008 Bedroom included」と名付けたインスタレーションまで、幅広い作品が展示されています。
アルベルティーナ美術館のディレクターであるアンゲラ・シュタイフ氏(Angela Stief)は、奈良氏の創作について次のように説明しています。「奈良さんは、紙片や古い封筒、包装材、チラシなどに、即興でドローイングを描くことがあります。これらの作品にはロック音楽などのサブカルチャーの直接的な影響が見られます。これらはアーティストの社会的関心を表現し、社会的な価値観、規範、理想を映し出すものです。」
旅路と旋律:創造へのインスピレーション
旅行を通じて感性が洗練されると奈良氏は語ります。
「旅に出ることが創造力に大きく影響するとは思っていません。ただ、自分の考え方や感情の感じ方を洗練させてくれます。より敏感になるという意味で、旅を通じて得られるものがあると思います。旅に出る理由は、本当にバラバラです。例えば、僕の祖父は若い頃に炭鉱労働者として働いていました。彼がかつて勤めていた北海道やサハリンの炭鉱を訪れることが自分の望みです。祖父が見た風景を自分も見てみたいと思っています。また、サハリンと地理的に反対の位置にある台湾にも興味があります。少数民族や先住民の生活が見られる場所を訪れたいのです。そこで見たものが作品に描かれることはないですが、ただ自分の感性や感覚をより磨いてくれるはずです。」
奈良氏が音楽を聴きながら創作活動を行うことは、ファンの間では広く知られていますが、奈良氏自身は幼少期から音楽に親しんできました。「作品を作る際に音楽が重要であると多くの人が思い込んでいますが、実は音楽は作品を作る前から大切でした。僕が子供の頃、非常に小さい時に初めてラジオから流れてきた音楽を聴いた瞬間から、その感覚を覚えていて、それ以来、音楽がずっと好きでした。音楽を聴いている時に絵を描きたい、アーティストになりたいと思ったことはなく、ただ音楽がずっとそばにありました。その延長線上で、絵を描く時も音楽を聴いていますが、絵を描くために音楽を聴いているわけではないんです。」
My Drawing Room 2008, bedroom included
© Yoshitomo Nara
Photo/ © Sandro E. E. Zanzinger
アーティストとしての自我と本当の自我
奈良氏は全世界から高い評価を受けている現代アーティストでありながら、アーティストというラベルは自分のアイデンティティの一部に過ぎないと語ります。「僕は、多くの人にアーティストとして認識されているかもしれませんが、それは本当の自分の一部にすぎません。おそらく自分の中でアーティストとしての部分は2割程度で、残りの8割はみんなが知らない、そして知ることのできない自分、それが本当の自分だと思っています。それを伝えるために、僕はインスタグラムやツイッターなどのSNSを利用しています。僕はインスタグラムやツイッターで人としての自分の日常を発信しています。その結果、常に旅行をしていたり、遊んでばかりいると思われるかもしれませんが、それも自分の一部です。これからも皆さんが 『この人はいつ絵を描いているんだろう?』と思うような投稿をすると思いますが、アーティストとしての自分だけでなく人としての自分を少しでもわかってもらえたら嬉しいです。」
原点への回帰:青森県への情熱と2023年秋の展覧会
青森県で育った奈良氏は、その土地が自身に強い影響を与えたと語ります。「僕は青森県で生まれ、育ちました。10代の大半をそこで過ごしました。今年の秋に、青森で大規模な展覧会を開催する予定です。展覧会では新作展ではなく、僕の感性や成長の過程が理解できるような展示を計画しています。子供の頃に読んだ本や、成長に関連するアイテムを展示したいと思っています。高校時代には、年上の先輩と一緒にロックカフェを作りました。そのように自分たちで作り上げた小さなコミュニティが、僕の人生の始まりだと感じています。美術家としてではなく、人としての自分の始まりなのです。その経験を展覧会で再現することを計画しています。」
Comments