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Gen de Art

アリヨ・ト・ジョヨ、アジア初となる個展「Over My Head」をペロタン東京で開催

米国・ロサンゼルスを拠点に活動するアーティスト、アリヨ・ト・ジョヨがアジア初となる個展「Over My Head」をペロタン東京で開催します。本展は今年初開催されたアートフェア、Tokyo Gendaiでのソロ・プレゼンテーションに続くものとなります。


ペロタン東京 アリヨ・ト・ジョヨ

Aryo Toh Djojo, Jan 6, 1969, 2023.

Acrylic on canvas, 30.5 x 40.6 cm | 12 x 16 inch. Courtesy of the artist and Perrotin. Photo by Keizo Kioku.


今回、ト・ジョヨは映像やファウンド・フォトなどの要素を初めて取り入れ、私たちがどのように真実を認識するか、その概念をさらに探求します。本展では、ト・ジョヨが関心を抱き続けているUFO(未確認飛行物体)の目撃情報や、それらが元となり歴史を通して生じてきた社会政治的な言説を示唆する一連の新作絵画を初公開します。展覧会の開催に際して、マイケル・エレンスキがエッセイを執筆しました。


『接点』

2022年6月10日 午後5時10分、夏のそよ風が吹く金曜日の日没3時間前のことです。アリヨ・ト・ジョヨはロサンゼルスのダウンタウンにあるスタジオの屋上で、燦然と輝く閃光を目撃しました。太陽は高く、雲はコーンフラワー色(紫を帯びた淡い青色)の空を墨流しのように染めるなか、この金属的な輝きは奇妙なものでした。飛行機にしては高すぎて、気象観測用の気球にしては動きが速く、多くの方向に動きすぎです。それはあっという間に消え去ってしまい、結局UFOとしか説明がつきませんでした。熱心なUFO研究家でもあるト・ジョヨは、この出来事を軽視しませんでした。それまでに唯一UFOを目撃したことがあるのは、20年以上も前にグレンデールの友人宅前の車道でスケートボードをしていたときのことです。当時高校生だったト・ジョヨと友人たちは、郊外の民家の上をホバリングするその金属的な球体について、当初は、ヘリコプターだと思いました。しかし、それが跡形もなく消え去ったとき、10代のスケボー少年たちは互いに顔を見合わせると… 悲鳴を上げました。


ト・ジョヨは、前述の2022年の閃光を偶然にも映像に収めており、これが現象論的な事象をフレーミングするための視点として屋根の輪郭線がもつ連続性を取り入れた新作絵画シリーズ創作の源となりました。ロサンゼルスの水平線は、カリフォルニアの海岸沿いや丘の上、あるいはロサンゼルス国際空港の上空を巡航している場合を除けば、さまざまな屋根が織りなす幾学によって解釈される(見かたによっては、遮られる)ことがほとんどです。厳かなマンサード屋根、平坦的なミッドセンチュリー、ムーアリバイバル様式のドーム、メタリックなモダニズムの斜面など、この街には様々な屋根があり、これまで数十年にわたりキャサリン・オピー、エド・ルシェ、ジョン・バルデッサリなど、数え切れないロサンゼルスのアーティストたちの作品を彩ってきた歴史があります。しかし、ト・ジョヨにとっては、名もなき破風(屋根の側面についている板)こそが、東京でのデビュー個展となる「Over My Head」を構成する示唆的な絵画を描く上で完璧なモチーフでした。


ペロタン東京 アリヨ・ト・ジョヨ

Aryo Toh Djojo, Thoughts in Mind, 2023.

Acrylic on canvas. 61 x 91.4 cm | 24 x 36 inch. Courtesy of the artist and Perrotin. Photo by Keizo Kioku


ト・ジョヨは破風について「まるでピラミッドのように、その背景にも、その中にも謎があります。さらに、その周囲の空にも謎があります」と語っています。ト・ジョヨは、オーロラを思わせるグラデーションがかった空の下、輝く瞳のように光る2つの窓を従えて、夜の影に佇むピラミッド型の屋根から探求を始めました。遠くに浮かぶ緑色の球体が特徴的なこの作品は、エアブラシをゆるやかに用いたト・ジョヨの絵画の多くと同様に、フリーハンドで描かれています。その手法は時間や場所といった特定の指標を曖昧にするベールをかけ、ノスタルジーを感じさせるものです。この絵画は連続的に制作された12×16インチのキャンバス作品12点のうちの1点で、それぞれのタイトルには、河原温の作品とは逆順の様式にて、連続した月の日付がつけられています。これらの日付は、歴史的に重要なUFOの目撃日にちなんでおり、各作品に必ずしもその絵とは関連性のない意味を持たせています。あるいは、関連しているのでしょうか?


一連の絵画の1作目は《January 6, 1969》と名付けられており、これはジミー・カーターとリアリー・ライオンズクラブのメンバー10人が、ジョージア州リアリーの上空に15分間出現した光の玉を目撃した日です。カーターの声明によると、UFOは「遠くから私たちに向かって移動してくるように見え、止まり、部分的に遠ざかり、戻り、去っていきました。最初は青っぽく、次に赤っぽく発光し、固体ではありませんでした」。空と白紙のように単調な家の組み合わせは、チャールズ・ゲインズの代表作《Night Crimes》シリーズがロサンゼルスの殺人現場と夜空の写真との間に不気味な関連性を生み出しているように、歴史的な目撃日に重ねられています。こうした組み合わせは、「これはここで起きたのか?」あるいは、より単純に「ここはどこなのか?」といった存在性について問いかけるようです。次に描かれた作品《May 11, 1950》では、夕暮れと、崖のように見える屋根の輪郭線から覗き込むマウンテン・ライオンが対になっています。また、《July 8, 1947》では、真夜中の黒い空を背景に、炎に包まれた家を描いています。一方、《October 11, 1973》は、ロンゼルスのマルチメディア・アーティスト、故マイク・ケリーが撮影した同氏の幼少期時代の自宅写真を再構想したものです。なお、ケリーはこの家をもとに原寸大の移動可能な環境彫刻《Mobile Homestead》を制作しました。今回、ト・ジョヨが唯一モノクロで描いたこの絵画は、今もミシガン州ウェストランドに佇むケリーの家と、いわゆるパスカグーラ事件が起きた日付を組み合わせています。パスカグーラ事件とは、ある夜ミシシッピ州パスカグーラ川沿いの桟橋で釣りをしていたチャールズ・ヒクソン(42歳)とカルバン・パーク(19歳)が、音を立てながら青い光を放つ約10×40フィートの卵型UFOに遭遇し、身体を麻痺させられるとその飛行物体に乗せられ、カニにも似た手を持つ3体のロボットのような生物に観察された後に解放されたと言われているものです。彼らの主張は各方面から否定されましたが、当該の飛行物体は著名なUFO研究家のボブ・ラザールが「スポーツモデル」と称したものに酷似していました。


Aryo Toh Djojo, Aug 25, 1950, 2023

Acrylic on canvas, 30.5 x 40.6 cm | 12 x 16 inch, Photo: Keizo Kioku, Courtesy of the artist and Perrotin


本展に向けて光り輝くスポーツモデルの絵画を制作したト・ジョヨ曰く「彼らの技術は私たちの技術と同時に進化していると考えられるので、このモデルは最近ではあまり見られなくなりました」。こうした形状にまつわる変遷を探るため、今回ト・ジョヨは2つのドキュメンタリー・アイテムも併せて展示します。1つは2022年6月に自身が目撃した際の映像を編集したもの、もう1つは絵画の元となりうる家を写した、ビンテージのポラロイド写真です。ポラロイド写真に収められた屋根の輪郭線は、ト・ジョヨの絵画にみられる印象深い「舞台装置」のように、遠方に不気味に浮かぶ(おそらく偽物の)スポーツモデルの船を縁取るようです。これらのアーカイブ資料や絵画には一定の真実味があり、ソーシャルメディアによる画像文化のなかで育ったニュー・ピクチャーズ世代にも通じるものを感じさせます。ト・ジョヨが抽出し、編集を加えるこれらの画像に唯一残されている有用性は、画像が捉えた出来事について観者が考えを巡らせることでしょう。


例えば、ビンテージのピレリ・カレンダーに掲載された女性の頭部の肖像画《Love Above》は、ト・ドジョがAIプログラムを用いて処理し、無限の宇宙に向かって昇りゆく天体のようにレンダリングしたものです。遥か彼方に見え緑色の小さな船に魅せられているように、あるいはグラデーションになった夕日を縁取る薄暗い部屋の窓を描いた《Thoughts in Mind》に心を奪われているようにも見えます。それとも、とある破風造りの家から覗き見をしている人の視点なのかもしれません。あるいは、Up Dogという言葉(「調子はどう?」を意味するスラング)を繊細なエアブラシで空中文字にした小さな絵画を見つめる、また別の視点かもしれません。絵画に書かれた儚い挨拶は希望に満ちている一方で、タイトルの《Not Much》はより不明瞭な現実を示唆しているようです。煙に満ちた文字の周囲を漂う未確認飛行物体は、戦闘機の照準に敵機を固定する際の赤い円によって縁取られています。郊外、宇宙人から成るこのかすみがかったスリップストリームの場面は、ケリーが早すぎる死を遂げる少し前に自身の《Mobile Homestead》について書いた次の一節を想起させます。「このプロジェクトの当初の構想は、私が育った環境についての本音を表現すること、そして人は常に社会的に受け入れられるための偽りの仮面の裏に、真なる願望や信念を隠さなければならないという、私の考えを表現するものでした」- マイケル・スレンスキ


アリヨ・ト・ジョヨ ペロタン東京

Aryo Toh Djojo, Love Above, 2023

Acrylic on canvas, 121.9 x 152.4 cm | 48 x 60 inch, Photo: Keizo Kioku, Courtesy of the artist and Perrotin

 

開催概要

展示期間

2023 年 11 月 15日 (水) - 12月 27 日 (水)

*休館日: 日曜日、月曜日、祝日


会場

ペロタン東京 (東京都港区六本木6-9-9 ピラミデビル 1F)


入館料

無料


Website

https://www.perrotin.com

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