東京の秋を彩る一大アートイベント「アートウィーク東京(AWT)」が、11月7日から10日までの4日間にわたり開催され、盛況のうちに幕を閉じました。4回目となる今年は、53の美術館・ギャラリーが参加し、多彩なプログラムで国内外からの来場者を魅了しました。10月30日には記者発表会が開かれ、AWT共同創設者の白井一成氏、同じく共同創設者でディレクターの蜷川敦子氏他、オリジナルのプログラムの監修を務めた片岡真実氏、塩見有子氏、そして今年AWTのアンバサダーに就任した俳優の鈴木京香氏にお話しを聞きました。
左から、白井一成氏、塩見有子氏、山本美月氏、鈴木京香氏、片岡真実氏、蜷川敦子氏
進化を続けるプラットフォーム
「この4年間で、海外からの注目度は確実に高まっています」と語るのは、AWTの共同創設者である白井一成氏です。「日本は長い歴史と独特な文化を持っています。海外の方から見ると、文化や芸術品など、非常に多くの興味深い要素があります。現代アートをきっかけに、日本の多様な側面を見てもらえることがAWTの魅力だと考えています」。
白井氏は特に今年の建築プロジェクトに大きな期待を寄せました。「今年は建築家・妹島和世さんがAWTのために特別な建築ツアーを監修してくれました。今後は国内外の建築家との連携も深めていきたいです」と、さらなる展開への意欲を示しました。
パブリックアートの新展開
AWTの共同創設者であり、ディレクターを務める蜷川敦子氏は、今年の特徴として「パブリックな場での価値の担保と、個人の感情への寄り添い」のバランスを重視したと説明します。「特にAWT BARでは、ランドスケープアーキテクトやパティシエ、音楽家、ファッションデザイナー、コンテンポラリーダンサーと連携し、さまざまな入口からアートの触れられる機会を設けました。アーティストが考案したカクテルを楽しみながら、そのアーティストの世界観に触れ、そこからギャラリーや美術館への興味を広げていただく。そんな多層的な体験を提供しています」。
海外からの来場者に向けては、「東京には様々な文化産業が存在していますが、それらが個別に活動していることも多い。AWTではそうした要素を組み合わせ、建築や食文化なども含めた東京のアートシーンを多角的に体験できる機会を提供しています」と、独自の取り組みを強調しました。
アジアからの新たな視点
森美術館館長であり、2024年の「AWT FOCUS」の監修を務めた片岡真実氏は、展示のコンセプトについて「二項対立ではなく、異なるものが共存できる世界をアジアの宇宙観から考える」という斬新な視点を提示します。「概念的なものではありますが、『様々な要素が共存し、変化しながら均衡を保つ』というアジア古来の宇宙観を表現しているような作品を意識しています」。
展示空間について「実際に作品を購入した後の暮らしをイメージできるよう、ホワイトキューブのような展示ではなく、リビングルームのような親密な空間作りを心がけました。椅子やソファー、ランプなども配置し、より生活に近い形で作品と出会える場を想定しています」と説明しました。また、57組の作家解説を通して、「それぞれの作家の世界観を具体的に言語化することで、隣接する作家相互、あるいは観客と作品との新しい対話が生まれることを期待しています」と語りました。
片岡真実氏
教育プログラムの充実
NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]理事長の塩見有子氏は、「AWT TALKS」を監修しました。アートへのアクセスを広げる取り組みについて、「アートやアート作品について感じたことや考えたことを言葉にして語り合える場をさまざまな形でつくっていくことを大事にしています」とし、それがアートを楽しむはじめの一歩であると説明します。さらに、「さまざまな年齢層の方が参加できる工夫や、アートファンからプロフェッショナル、さらには海外の関心層」にも向けて、アクセスポイントを複数用意しているとのこと。例えば、「オンライントークでは、アーティストの声とその背後にある歴史を積極的に取り上げています。第一線で活躍する村上隆さんと大竹伸朗さんによるお話は特に反響が大きく、これが新たな層のアート体験のきっかけとなっています」と説明します。
「また、現代アートは、社会や経済、人々の営みと深くつながっています。ですので、私たちがいまどのような時代に生きているのか、歴史が何を伝えてくれてるかについて学ぶこと、学び合うことはとても重要です。そしてそれを語り合い、その視点が複数化、多様化することでアートそのものをより豊かにすることができる」と、教育プログラムの意義を強調しました。
アートと表現の深い関係性
AWTのアンバサダーを務めた俳優の鈴木京香氏は、自身のアート体験について率直に語ります。「29歳の時に初めてオークションで絵を購入して以来、アートは常に身近な存在です。好きな作品を近くに置いて愛でる時間は、私にとってかけがえのないものです」。
また、俳優としての活動とアートの関係について、「作品と向き合う時、作品を理解したいという気持ちで接することで、自分の感情の新しい発見があります。それは俳優業にとても必要なものです」と説明しました。
また、特に印象に残っている作家として、サイ・トゥオンブリーを挙げます。「学生の頃は近代絵画、モダンアートが好きでしたが、トゥオンブリーの作品に出会って現代アートの面白さに衝撃を受けました。特にイタリア時代の作品には詩情を感じます。神話をモチーフにした作品は今でも画集を眺めることが多いですね」と、アートとの深い関わりを語りました。
AWT アンバサダー 鈴木京香氏
アートウィーク東京(Art Week Tokyo)
写真の提供:アートウィーク東京(AWT)
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